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農業経済 一般教書演説
第1部: 工業的な農業の論理的帰結

ミズーリ大学名誉教授ジョン・イカード

11月9日ワシントン州ヤキマで開かれた農耕生産者会議においてミズーリ大学農業経済学部のジョン・イカード名誉教授が基調講演を行いました。イカード教授は「最先端の家族農業」と題されたこの講演で、工業化された農業への鋭い分析と、「新しいアメリカの農業者」の出現について述べました。

この講演を3部構成で掲載することにしました。

第2部 2002年12月3日:消費者の関心が高まる持続可能な農業
第3部 2002年12月12日:新しい種類の農業者




アメリカ農業の大変革――農業の工業化

2002年11月27日:現在、アメリカの農業は「大きな転換期」を迎えています。私たちが知っている家族農業や自立した地域社会を基盤とする農業は、農場の機械化による運営と地域社会の衰退に伴って工業的な農業へと急速に変化していっています。このような変化により、大きな危険が生ずると共に、大きなチャンスも与えてくれます。生き残れるか成功するかなど保証は全くありませんが、変化による影響を理解していれば、それらの危険を回避し、チャンスを生かすことに役立てることができます。今日のアメリカ農業における変化は、農業の工業化を促進する力となっています。

第2次世界大戦後、化学肥料、農薬の使用が工業化を促進

農業の工業化は最近に始まったことではありません。農業の機械化に伴い、細分化、標準化、また工業化への統合へと向けた波は20世紀に入る頃始まりました。しかし、第2次世界大戦後、化学技術――特に商業用化学肥料と農薬――は工業化を促進させました。そして最近まで、農業の工業化が進む過程で引き起こされたもっとも顕著な結果は、農場の大規模化、農場の減少そして農家世帯数の減少でした。それでも生産者や家族経営農家、また農業の重要性を理解している人達は、何をどのように、誰のために生産するのか、それが農地や周囲の人々にどのような影響を与えるのか、ということに配慮し意思決定を下していました。

「契約協定では誰に決定権が与えられるかが決められますが、大部分において、農家は地主やトラクターの運転手や養豚場の管理人と同じように見なされており、本来の役割をもつ「農家」として見なされていないことは確かです。これらの契約条件を決定する農業関連企業は、法人組織であって個人ではありません。それ自身には家族も友人も所属する地域社会もなく、ましてや国籍などないのです。」

生産性追求が引き起こした悪循環
農業における細分化、標準化、工業化への統合は、今日まで、個々の家族農家の意思決定の下で進められてきました。増収が確実に見込めるだろうという予測から、公的支援を受けた研究によって開発された多くの新しい機械や化学技術を、農家は自由に選択し導入し、それにより、高い生産性が常に見込まれました。このことにより、生産コストが下がり、農家の売上利益率は大きく増えるだろうと。一般的に生産率が高まるということは、各農家が以前に比べて生産量を増加できるということです。 現実問題としては、新しい技術投資を正当化させ、技術投資の恩恵を実際得るためには、さらなる生産量が必要となりました。

しかしながら、利益が増えるという恩恵に浴することができたのは「初期の頃に工業化に転向した農家」だけでした。新技術、新型の機械、農薬を導入する農家がさらに増え、また農家は増産を強いられるため、総生産高は常に増えていきました。大量に生産した場合に限り、生産コストを減らすことができました。しかし生産高が増えると、市場価格は常に下落し、革新的だった農家さえも、以前と変わらず生活が苦しい状況に置かれたのです。一方、後になって工業化に転向した農家は、投資をほとんど回収できないまま、生産価格が下落し利益も得られないという状況に陥りました。また、政府の支援で商品価格が決定した場所では、利益分だけ地価が高騰しました。利潤を追求するためではなく生き残るために工業化するしかなく、転向するのが遅すぎた農家は生き残ることができなかったのです。

工業化――長期に及ぶ危機と農場における失敗の連続
農業の工業化に失敗した農家が農地を手放したことで、農場を大型化した農家もいました。そういう農家は新技術による十分な収益をあげるため、以前より農地を広げるか、より多くの家畜を飼育するかだったのですが、実際のところ、生産価格は長期間にわたって下降状態が続いたために、新しい工業技術への資金調達のために農家は破産するという状況に陥りました。「技術革新」が導入されると、常に、次なる新技術の導入へと発展しましたが、工業化により、長期に及ぶ危機と農場における失敗の連続という当然とも言える結果を招くことになったのです。

アメリカ農業:工業化における苦悩の最終段階


農業の企業化
現在進行中の農業の「企業化」はまさしく工業化の最終段階といえます。新技術は常に事業を拡大し、その都度新規投資を必要としてきたため、最大規模の農家を除く一般の農家は皆、必要な額の資金をうけることができなくなるという状態に陥っています。農家の多くは、これまで投資資本を強化するために同族会社を形成してきましたが、加速する農業の工業化に必要な資本提供を受けることができるのは公営企業だけとなってきており、その数は増えています。現在、経済学者は、農家にとって21世紀の競争力となる技術、資本、市場獲得へのアプローチを得るための唯一の手段として、企業契約を賛美しています。農地や基礎的な生産施設のほとんどは、まだ農家や同族会社により所有されていますが、生産は次第に巨大な農業関連企業による管理下へと移行してきています。

家族農業の崩壊を招く政府のプログラム
今日に至るまで、アメリカ農業の工業化と企業化は政府の政策――農業プログラムや公的支援による研究や教育プログラムなど――によって支援されてきました。これらの政策の最優先目的は、より安い食品価格という形で消費者が最大の恩恵を受けることができるよう農業の効率性を高めることにありました。家族農業への支援という政策的レトリックは続いていますが、政府プログラムは明らかに家族農業の崩壊を招く農業の工業化策――細分化、標準化、工業化への統合――を支援し続けているのです。

新農業法に期待できない
新農業法「2002年農業保障・農業振興法」の調印に際して、(ブッシュ)大統領は「新農業法は農家の経済を強化し、農家の自立を促進し、今後何世代にも渡って農家の生活を保護するだろう。」と述べました。1930年代以降、農業法が改正される度に同様の主張はなされてきましたが、農業経済は絶えず疲弊しており、アメリカ農業は次から次へとやってくる危機に喘いだ状態でいます。現在、自立している家族農家はごくわずかです。この新農業法に記述されている約束は、どれ一つ守られることはないでしょう。裕福な地主や農業関連企業に助成し、家族農家には出費させるというこれまでの政策を単に継承しているだけで、新農業法に掲げられている農家の自立促進や保護については実際には期待できません。農業保障や食料保障や、アメリカの農村地域の生活向上についても同様でしょう。

企業化の方向性――市場でのシェア拡大と市場支配力
食料システムへの企業の支配力が増すにつれ、契約農家よりも低コストで生産している独立した農家でさえ、競争に打ち勝つのは困難だと認識するようになってきています。現在企業は、新技術、特にバイオテクノロジー関連の大部分を掌握しており、農家は契約協定を通してしかそれらを入手できません。大手製造加工業者(大手製造加工メーカー)は、原料のほとんどすべてを契約を通して入手し、その結果契約していない農家の市場参入、もしくは少なくとも「競争」市場への参入の機会を奪ってしまうケースがますます多くなってきています。現在、農業の企業化は生産効率を高めることよりも、市場でのシェア拡大と市場支配力強化の方向へと進んでいるのです。

経営は所有者の社会的倫理的価値観から離れる 
同族会社も一般の農家と同じように、家族の根本的な価値観を反映して意思決定がなされています。少数の株主で構成される「閉鎖」会社でさえ、所有者の持つ基本となる社会的倫理的価値感を反映して、意思決定がなされます。しかし、株式上場の大企業のように株主の数が増え、基本的に所有権から経営が離れてしまうと、意思決定は企業の利益や発展に影響されます。こうした企業の資本のほとんどは投資信託と年金基金によって運用され、株主は、すべてではないとしても、投資の価値が上がることに最大の関心を持つ傾向があります。このように企業に管理された農業はこれまでの農業とは根本的に異なるものとなります。

農場は誰のもの? アメリカ人は食料自給をコントロールできない

国外の多国籍企業が生産に関する決定を行う
アメリカ人は自国の農業をコントロールできなくなっています。何を、どれだけ、どこで、どのように、誰が生産するかは、アメリカ人によってではなく、ますます多国籍企業によって決定される傾向にあります。地主や労働者はまだアメリカ人かもしれませんが、生産に関する決定は、国外でほかの誰かによってなされているのです。契約協定では誰に決定権が与えられるかが決められますが、大部分において、農家は地主やトラクターの運転手や養豚場の管理人と同じように見なされており、本来の役割をもつ「農家」として見なされていないことは確かです。

企業の経済的要求に従うしかない
これらの契約条件を決定する農業関連企業は、法人組織であって個人ではありません。それ自身には家族も友人も所属する地域社会もなく、ましてや国籍などないのです 。企業の労働者は、個人であり、家族や友人や地域社会と共に生きるどこかの国の市民ですが、大抵の株式上場企業のように企業の所有権が経営から離れてしまうと、労働者は企業の利益と発展のための経済的要求に従っていくしかないのです。多国籍農業関連企業はアメリカ農業への支配力をますます強化し、無国籍で世界の至る所に株主を持っているのです。

「大企業がアメリカでの農業を撤退する前に、アメリカの農村地域の多くは『第3世界』に見られる不毛の地へと化してしまっているでしょう。河川や地下水は汚染され、小さな沼に廃棄物は捨てられ、表土は破壊され疲弊し、帯水層は枯渇し、農村地域の犯罪、未熟な労働者、農村地域の消滅――これらは、農業の企業化による負の遺産となるでしょう。」

今後さらに多国籍企業は、アメリカ国外で生産する方がより儲かると認識するでしょう。トウモロコシ、大豆、豚肉、牛肉、綿、米などの主要農産物を生産する場合、南アメリカ、オーストラリア、南アフリカ、中国のような地域と競争するには、アメリカの農地や労働コストは高すぎるのです。アメリカ人は、高賃金で働き、土地は高級な宅地として使用します。その結果、農業関連企業はアメリカで生産することをやめ、簡単に事業をどこかへ――投資に対してより利潤の多い海外のどこかへ――と移転するでしょう。

土地と人間の両方を搾取する大企業との契約協定
世界市場での生存競争に生き残るためには、アメリカの生産者は、土地と人間の両方を搾取する契約協定を受け入れざるを得なくなるでしょう。大規模な飼育場での養鶏や養豚の工業化は、大企業による搾取の代表例と言えます。臭気や廃棄物で農村地域の環境は汚染され、労働者と投資家は最低限の利益を得るのが精一杯です。家族農業は経営を続けていけない状況に追いやられます。それでも、大半の生産者は、契約することが市場に参入するための唯一の方法だと思っています。同じような傾向は酪農でもすでに見られ、工業化はかなり進行しています。そして大企業は、遺伝子組換えの特許やバイオテクノロジーによる穀物生産を、直にコントロールするでしょう。

アメリカの農村地域: 農業の工業化による最大の犠牲

農村地域は不毛の地へと化す
大企業がアメリカでの農業から撤退する前に、アメリカの農村地域の多くは「第3世界」に見られるような不毛の地へと化してしまっているでしょう。河川や地下水は汚染され、小さな沼に廃棄物は捨てられ、表土は破壊され疲弊し、帯水層は枯渇し、農村地域の犯罪、未熟な労働者、農村地域の消滅――これらは、農業の企業化による負の遺産となるでしょう。アメリカ人は環境保護規制で阻止しようとしても、短期的経済性を重視する風潮に結局流されてしまうでしょう。一方、最終的に大企業は、アメリカ国外で食料や繊維を生産する方が安いことに気付き、世界的「自由市場」経済の下、事業を国外へ移すことになるでしょう。

効率性を追求し、安全性を犠牲
アメリカ農業の現状を把握するのにデータ、事例、数字は多く必要ありません。常識から判断できます。効率を求め農業の工業化への道を歩んできた結果、農家はさらに減少し、農場運営はより大規模化し、現在では農業は大企業によって支配されています。その過程でアメリカは、農場の安全性と自国の食料自給の安全性を共に失ってしまいました。これは私たちが追求してきた目的と戦略の結果です。効率性を追求し、安全性を犠牲にしてしまったのです。理解するのは難しいことではなく、当然の結果と言えます。

食料自給のできない国家は自衛力のない国家と同じくらい安全ではない
しかし、食料の海外依存に対して懸念の必要はないと主張する経済学者は数多くいます。世界的経済発展の新時代において、アメリカが農業そのものを超えて進化するのは必然であり、食料は世界各地で安く生産され、もっと低価格で購入できるようになっている今日、アメリカ国内の土地と労働力に対してもっと高い使用価値をあたえるべきだと助言しています。しかしながら、もし危機がやって来た時に、食料自給のできない国家は、自衛力のない国家と同じくらい安全ではないのです。農業を完全に放棄することはないでしょうが、今日の石油のように、食料を安易に国外に依存するようになるかもしれません。石油のように、食料を輸入し続けることはできるでしょうが、どれだけ強大な軍事力が必要とされ、どれだけの多くの「小さな戦争」が起き、どれだけ多くの人が殺されることになるのでしょうか?

 
 


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